ヴィム・ヴェンダース『ゴールキーパーの不安』(1971)

ヴェンダースが映画館配給用に初めて撮った作品である。のちに『ベルリン、天使の詩』で組むことになるペーター・ハントケの小説の映画版。

 主人公はプロサッカーチ―ムのゴールキーパーのヨーゼフ・ブロッホ(アルトゥール・ブラウス)という男。本作は彼の行動の動機の不可解さが中心にある。試合中、注意散漫でボールが来たのに反応をしない、そしてどこかに行ってしまう。一人で街をぶらつき、映画館の受付嬢と一晩ともに過ごすもなぜか絞殺する。しかし彼の心理はわからない。そこから国境近くの田舎町に赴き、知り合いのところに寄るも、ただぶらついて酒を飲んで新聞を読み音楽を聴くというニート生活を送る。最後に近くでやっていたサッカーの試合をみて、ゲームはキーパーの目線で見るとまったく異なって見える、ボールを追いかけてはいけない、人の動きなんだという旨のことを隣に座っていた観客に告げる。完全にサイコパスである。

彼には罪悪感というものがない。道徳が欠如している。完全犯罪をしたわけではなく、証拠は残してしまっているし、それが新聞で取り上げられているのを彼も読んでいる。それに彼のジャケットは目立つし、彼が受付嬢のアパートから出たときには歩行者がいた。田舎町にいくまでの道中でもいろいろな人と接したり、時にはトラブルを起こしたり、完全に顔を覚えられている。だがあの余裕は一体何なのだろう。究極的には身の破滅を望んでいるように思えるが、行動の一つ一つは自分の欲に忠実で普通に生きているだけに見える。しかし、繰り返すが、身の破滅は迫っている。ゆえにそれはゆるやかに破滅を誘い込む身振りといえるだろうか。そうするにあたって彼は街でじっとしてはいない。遠くへ旅立つ。旅立ちと破滅そして孤独、そう考えるとヴェンダースらしい映画であると思えてくる。

しかしハントケが原作をしているだけあってこの映画はやはり難しい。考えをはっきりさせるためにはもう一回くらいは観ないといけないだろうな。