ジャン=マルク・ヴァレ『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)

最近、AIDS危機について勉強したいと思い、いくつか映画をみている。その中のひとつ。

ダラス・バイヤーズクラブ [DVD]

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 HIVに罹患したテキサス・ダラスの白人男性ロン・ウッドルーフが当時違法であった種の抗HIV薬を患者たちに売りさばくという物語。実話をもとにしているらしいが、ウッドルーフはヘテロセクシャルであったが女遊びが激しく、ある日HIVに感染する。AIDS患者が出始めた初期には、HIVがゲイのみがかかる病として認識されていたことはよく知られており、かつホモフォビアも根強いテキサスで彼は周りから差別を受け、しかもHIVウイルスの治療薬とされたAZT(azidothymidine:アジトジシミン)はいまだ治験過程であり入手困難かつプラシーボも含まれるためにあてにならず、さらには深刻な副作用さえある。そこで彼はかかっていた病院の看護士の非公式な紹介をもとにメキシコに飛び、ライセンスを持たない医師のもとで抗HIV薬を処方される。それらは特定の薬剤会社と癒着していたアメリカにおいて違法とされ処方はできなかった薬であった。しかし彼はなんとか国境警備をすり抜け、アメリカ国内でAZTに代わるより副作用の少ない抗HIV薬を罹患者たちに売りさばくこととなる。

特にアメリカの薬剤会社と国家の癒着もAIDS危機において致命的であったことがわかって勉強になった。AZTといえば『エンジェルズ・イン・アメリカ』においては効果は約束できないまでも希望の薬として登場するので、本作を観ると異なる視点が増えてよい。

内容については結構微妙な感じがある。そしてそれは結構大事な感覚のように思われる。ウッドローフはもともとホモフォビックだし、罹患してからも基本的には彼のスタンスは変わらない。しかも、彼は別に慈善者というわけでもなく、罹患者もある程度の金額を用意しなければ彼の用意した薬の恩恵に与ることさえできない。ウッドローフのやったことはいわばビジネスである。そんな彼が多くの患者を救ったというか余命を引き延ばしたというのがなんとも皮肉であり、この奇妙な「連帯」の光景がもたらす微妙な感じは興味深いものがあるし、単純に良し悪しの次元で片づけてはならないと思い至らせてくれる。他の言い方をすれば、この微妙さとは良し悪しなるものを支える基準を再考するように促すようなものであると思う。